今晩は、小さな朗読会で届けてもらった詩を。
串田孫一さんが文を手掛けた「光の五線譜」という写真と詩で
織りなされた本。
いつも目でおっていることばに、
声がくわわると、みずみずしく、すとん、と心に届く。
秋を飾った赤い葉が、今は冬を飾る霜をつけている。
赤い葉は冬が訪れても その赤を大切にしながら 冬をも飾った。
野の道は、氷を張った小川に沿って続いていたが、
そこへ朝の光が射し込んで来ると、
寒い一夜を過ごした万物が目ざめ、
青白かった世界が、
虹の端がふり撒かれたようににぎやかになり、
急いで歩いていた私の歩調もにぶる。
時刻を気になどかけないが、
光が次第に強くなっていくので、
霜の今朝の飾りもそういつまでも残ってはいまいと思って、
私はどうしたらいいのか分からなくなった。
店には入ったが、
目移りがして何が欲しいのかわからなくなってしまった幼年時代とどこが違うのだろう。
そして私は多分後悔をすることになるだろう。
その時、何故迷わずに一つのものをじっくりと見なかったのだろうかと思って。
赤い葉のへりでは、霜が溶けはじめる。
光の五線譜/文・串田孫一