野川さんの写真を見ていたら思い出した本の一節。
熊笹の多い落葉松林の中を登っていくと、急に風が激しくなった。
尾根の鞍部を通ってくる風が池の上をまっすぐに通って反対側のこの
東側のくびれを吹きぬけるせいか、まるでそこで急に風が吹きはじめた、
とでも思えるような突然の激しさだった。
あっ、、と驚くようなすばやさで、いきなり風景の転調がおこなわれた。
静止した落葉松林がいっせいに動いた。
私は足を止め、息をのんだ。
その峠は風と雪と、乱れ飛ぶ落葉松の落ち葉の、すさまじい狂乱の舞台だった。
風に吹き払われる金色の落葉松の葉が、
舞い狂う雪と一緒にいちめんに空に飛び散っていた。
滅びるものは一切の執着を絶って、滅びなければならぬ。
もはやそこに、悔いも迷いも、ためらいもなかった。
ひとつの絢爛を完成して滅びの身支度を終えた自然が、ひとつの季節の移りを
まっしぐらに急いでいた。
秋は終わった。なんといういさぎよい、すさまじい別れ。
わたしはひとり、とり残されなような気がした。
山口耀久/ 北八ツ彷徨より
本当に金色の世界に入り込んだような気になる落葉松の林の秋。
その終わる瞬間を見たことは、まだない。
その瞬間はとても悲しいのだろうか、怖いくらい美しいのだろうか。
まだみぬ落葉松の葉の旅立ち。