山の欠片〜展示の風景page.5

     



今晩は
串田孫一さんの文を
野川さんの写真とともに。




 

ひと晩降り続いた後の、

まだ青い空はところどころにしか見えていない雨上がりの朝であった。

山麓の滞在には大した目的もなく、

このあたりの自然を見て歩くこと以外は、なるべく考えないようにしていた。

 

それが健康的だと言えるかは別として、

夜明けとともに目覚め、

しかもそれがすがすがしいものであるようにと努力はしていた。

私の手帖は、日々目撃する植物や昆虫、

そして遠く近くにさえずりを聴く鳥の名前で満たされ、

夜になると図鑑を相手に、調べたり、確かめたり、また小さい発見をよろこんだ。

 

 


だが、その雨がやんだ朝の散歩で、

さまざまな葉の上に、大小の水玉を見た。

 

それは自分の知らない、

宇宙というものの似姿のように思えた。

 

私はそれまで、露の雫だの雪解けの雫などを

たくさん見ていたのに、

本当は何も見ていなかったのかもしれない。

 

これは朝の散歩の収穫などとは言えない。

私に改めて課された問題であり、

解決を急いでも得られないが、

新しい糧の秘密が隠されていそうに思えた。

 

~串田孫一 光の五線譜より