山の欠片〜展示の風景page.4

今日はモブロさんが今回の展示に沢山持ってきてくれた、アルプについて。
アルプは昭和33年に串田孫一責任編集で創文社から創刊され、25年後の昭和58年に300号をもって
終刊した山の小冊子です。

表紙にはアルプという端整な字体。
今見ても決して古びれることのない、
数名の作家による、いくら見ていても見飽きることない表紙の版画の数々。


わたしは池内紀さんがアルプの中から選りすぐった文を集めた本、
「ちいさな桃源郷」、と続編「山の仲間たち」という本がとても好きで、
ことあるごとに手にとってパラパラと読んでいます。
( この本は幻戯書房が出版しているのですが、緒方修一さんの装幀から使っている紙など全てが
素敵なのです。)

わたしのような若輩者がアルプについて語るのは憚られるので、

この本のあとがきより抜粋させていただきます。

 

「...300号を通して装丁はほとんど変わらなかった。表紙は緑がかった水色。

そこに「アルプ」のタイトル文字。山の雑誌だが、山の案内はしない。

コース紹介、技術や用具をめぐる実用記事といったものもまるでなし。

広告は一切載せない。そんな雑誌が300号続いた。

わが国のジャーナリズムにおいて、とびきり大胆できわめて珍しいケースだったのではあるまいか。

読者にウインクし、新味をちらつかせ、情報で脅し続ける雑誌の中で、ひとりアルプはひっそりとしていた。

 

そこには、それぞれがいきついた桃源郷が語られていた。、、、

ほんとうの思想がそうであるように、軽やかで、こともなげで、人をとらえても、

決して重苦しく呪縛しない。」~ちいさな桃源郷より。

 

 

「わたしがこれまで見かけた山岳本は函入りハードカバーで〝登山全集″などと

いたってものものしく、

そこでは山はただ黒々とそびえ、川もハタと流れを止めた具合だった。

「アルプ」の中では渓流がささやいていた。シダの匂い、岩の匂い、風の匂いがした。やさしい生き物たちが、すぐ近くにいる。足が歩きたがっていた。

稜線がまぶしい。項をくると、澄んだ山気が漂ってくる。、、、」

~山の仲間たちより




 

今回の展示でアルプ世代ではない、若い方々もとにたくさんのアルプ旅立って行きました。

時をこえて、山の仲間たちが、

ページのそこかしこの片隅から山へ行くのを小さな声で誘っているはずです。